近年、企業経営における最重要課題の一つとなっているのが、人件費の高騰です。

人材獲得競争の激化による人件費の上昇、最低賃金の引き上げ、そして社会保険料の増加など、企業のコスト負担は年々重くなっています。こういった避けることのできないコスト増は、企業の収益性を圧迫し、場合によっては倒産にもつながるリスクとなっています。

本記事では、人件費高騰の現状と根本的な原因と、企業ができる対策として、特にBPOを活用した具体的な解決策を、モデル事例を交えて徹底解説します。

1．人件費高騰の現状とその原因

帝国データバンクが発表した「2025年度の賃金動向に関する企業の意識調査」によると、2025年度に賃上げを見込んでいる企業は61.9％にのぼり、調査開始以来初めて6割台に達しました。企業が賃上げを行う理由は以下のようになっています。

●賃上げ理由のトップは？

最大の理由は「労働力の定着・確保」（74.9％）のためです。企業間の人材獲得競争が激化しており、優秀な人材の流出を防いだり、新たな採用につなげるためという理由によるものです。

また、採用力の強化（37.5％）の他に「同業他社の賃金動向」（30.3％）が前年より5.0ポイント増加しており、同業他社との比較で賃金を上げざるを得なくなっている企業も増えています。

2．人件費高騰の背景

人件費の高騰は、単なる「景気回復による賃上げ」という一時的な現象ではなく、日本の構造的な問題に起因する複合的な要因によって引き起こされています。

1．労働人口の減少

日本では総人口が減っているだけでなく、労働人口の減少が顕著となっています。

内閣府の2019年の「企業意識調査」では、約7割の企業が人手が不足していると回答したという結果も。労働市場の需給バランスが崩れ、働き手一人ひとりの価値が高まっているため、必然的に人件費が高騰しています。

2．最低賃金の引き上げと社会保険料の上昇

2025年度の最低賃金は全国平均で1,121円となり、引き上げ額の幅は63円～82円で過去最大になりました。これも企業の人件費負担増の一因となっています。

さらに人件費には、賃金以外にも社会保険料が含まれます。

医療費や介護費用の増大に伴い、企業と従業員が折半して負担する社会保険料率は上昇傾向にあります。さらに、これまで従業員51人以上の企業に勤める場合のみ社会保険の対象とされていたのが、段階的に対象が縮小され、2035年には全ての企業が社会保険の対象となる見込みです。

これは、多くの中小企業にとって人件費負担増の大きな懸念であり、給与本体の引き上げと相まって、総人件費の急増を招いています。

■人件費の高騰は倒産リスクにも

人件費が高騰しても、その増加分を商品の価格に適切に反映できない場合、企業の収益性は大幅に悪化します。

競争の激しい市場環境では、安易な値上げは顧客離れにつながるリスクもあり、企業は利益率の低下に苦しむことになります。これにより、投資余力や不測の事態への対応力が失われ、最終的には倒産リスクにもつながりかねない、非常に厳しい経営環境が生まれているのです。

3．人件費削減のための効果的な対策

人件費の高騰が構造的な問題である以上、企業は小手先の対策ではなく、経営の根幹に関わる根本的な対策を打つ必要があります。

人件費を最適化するためのアプローチとしては、大きく分けると「業務の効率化」と「コスト構造の転換」の2つが考えられます。

■業務の見直し・効率化

まず取り組むべきは、現在の業務フローの中の無駄を洗い出し、従業員一人あたりの生産性を高めることです。

• 全業務をリストアップし、コア業務とノンコア業務に分類する。
• 特にノンコア業務において、無駄な承認プロセスや重複作業がないかを確認し、業務フローをシンプルに標準化する。

■ デジタル化やRPAにより従業員の負担・残業を減らす

効率化の実現に不可欠なのが、ITツールの導入です。RPA（ロボティック・プロセス・オートメーション）やAI技術を導入し、請求書処理、データ入力、ルーティンメール送信などの定型作業を自動化します。これにより、残業代の削減につながると同時に、従業員はより創造的で付加価値の高い業務に集中できるようになります。

■アウトソーシングにより必要なときだけの変動費に変える

最も迅速かつ抜本的に人件費の最適化を実現できるのが、アウトソーシング、BPO（ビジネス・プロセス・アウトソーシング）の導入です。

自社の社員を雇用する場合、景気や業務量に関わらず給与や社会保険料などの固定費が発生します。BPOを導入すれば、業務の繁閑に応じて必要なリソースだけを外部に委託できるため、人件費が変動費に変わります。

特に月末や四半期末など業務量が集中する時期に発生しがちな「恒常的な残業代」を削減する上で有効な手段です。

4．BPO導入がもたらすメリット

BPOは、単に業務を外部に丸投げすることではありません。人件費高騰という課題に対し、中長期的な視点から経営を改善する戦略的手法です。

■中長期的なトータルコストの削減

BPOのメリットの一つに給与以外の間接的な人件費を含めたコストを削減できる点があります。

・採用コスト

・教育コスト

・法廷福利費（社会保険料）

■業務を最適化することで費用対効果を最大化

BPO事業者は、特定の業務プロセスに関する高度な専門知識と効率化ノウハウを持っています。

・専門家による業務プロセス改善

自社の非効率な業務プロセスが改善され、業務の質を落とさずにスピードと精度が向上します。

・コア業務への集中

高コストな正社員を、請求書処理などの定型的なノンコア業務から解放し、戦略策定や顧客対応といった利益に直結するコア業務に集中させることができます。

これにより、同じ人件費でも生み出す付加価値が最大化され、費用対効果（ROI）が高まる効果が期待できます。

5．【モデル事例】BPOによる人件費最適化

それでは、BPO導入で人件費を最適化で想定される事例をご紹介します。

Eコマース企業S社の人件費の課題を解決した事例です。

■導入前の主な課題

・高い採用・教育コスト

経理担当者の退職時に、高額な人材紹介料（約120万円）とOJT（教育担当者の人件費）が発生し、間接費が増大。

・恒常的な残業代

月末・四半期末の経理・総務業務が集中し、社員に月平均30時間以上の残業が発生。年間約150万円の人件費超過が発生。

・非効率なリソース配分

高コストな正社員が、請求書処理などの定型的なノンコア業務に時間を奪われていた。

■BPO導入による主な効果と実績

・固定費の変動費化と直接コスト削減

・削減された固定費: 経理・総務担当者1名分の人件費（年収約400万円）

・発生した変動費: BPO委託費用（年間約300万円）

＜結果＞

直接的なコスト削減（年間約100万円）と、必要な時だけ支払う柔軟なコスト構造へ転換。

■間接的な人件費の完全撤廃

・削減効果: 採用費用、教育担当者の工数、残業代（年間約150万円）をほぼゼロ化。

・結果: 間接費を含めたトータルで、年間約300万円の人件費最適化を達成。

BPOは人件費の変動費化によってコストを柔軟にしたり、間接費を減らすことで、人件費高騰時代における企業の収益構造を根本から改善する効果が期待できるのです。

５．まとめ

人件費高騰の状況は、見方を変えれば、経営を見直し、業務効率化とコスト最適化を断行する絶好の転換点でもあります。

BPO（ビジネス・プロセス・アウトソーシング）は、この転換を実現するための最も有効な戦略の一つです。

ノンコア業務の専門家への委託を通じて、トータルコストを削減し、自社の正社員を付加価値の高いコア業務に集中させることで、企業は人件費高騰の波を乗り越え、持続的な成長を実現することができるでしょう。

人件費の最適化は、企業の未来を左右する重要課題。ぜひこの機会に、戦略的なBPO導入をご検討ください。